――アニメーションのアフレコは初めてだったと思いますが、ご感想はいかがですか?
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上川 普段やっている芝居とは違った質の演技を要求されると思いましたし、正直、このスタジオに来るまでは何も考えないようにしていました。監督がおっしゃることに、どれだけ自分が寄り添っていけるか。それだけを考えて、今回は望みました。
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――今回は、シリーズ構成の中島かずきさんのご推薦もありまして、上川さんに『天元突破グレンラガン』へ参加していただいたわけですが、ご感想は?
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上川 今回のお仕事を引き受けて、実は……ものすごく後悔しているんですよ。 今日の収録までに放映されたテッペリン攻略戦まで……僕は完全に一視聴者として楽しんでいたんです。ここまでハラハラドキドキワクワクの連続で、毎週楽しみにしていたのに、自分が参加する立場になってしまったものですから。制作のかたから送られてくる資料や台本で、その後のストーリー展開全てを知ってしまったわけです。この後の楽しみを、一気に奪われてしまった(笑)。このあと、大グレン団のメンバーがどうやって戦っていくのか……。僕が4月からずっと楽しんできた素晴らしいエンタテインメントを取り上げられてしまった。この喪失感はどうしようもないですね。
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――上川さんはアニメーションがお好きなんですね。
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上川 ちょうど僕が小学生から高校生にかけて、たくさんのアニメーションが登場した時期――「まんが映画」「テレビまんが」と言われていた作品が、「アニメーション」と呼ばれるように変化した時代だったんです。その中で、僕も中島さんもたくさんの作品を観てきました。『グレンラガン』には、それらの影響が散見できるんですよね。そんな楽しみを僕は『グレンラガン』で味わえました。第8話のカミナの死に様ですとか、第14話のキノコ雲の中から現れるダイグレンなど、見た瞬間に思い浮かぶ作品があるんです(笑)。そして、もちろん一本筋が通った男の成長物語としても観ることができる。これは、どなたがご覧になっても楽しめる作品になっていると、強く思います。久しぶりに一話も見逃したくないと思える作品です。
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――その充実した作品で、上川さんは「アンチスパイラル」という役柄を演じられることになったわけですが、いかがでしたか?
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上川 ラスボスですからね。すべての謎、すべての終結点として存在する男……しかも性別があるかどうかもわからない絶対の存在ですから。とてつもない「圧」のようなものを感じて演じました。
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――今石(洋之)監督や中島かずきさんから「アンチスパイラル」に対して、どんなお話がありましたか?
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上川 監督や中島さんがおっしゃっていたのは、相対的な立ち位置ですね。大グレン団とアンチスパイラルの立ち位置の違い。アンチスパイラルは何をなそうとしているのか。人類から見たときの、アンチスパイラルの距離感を説明してくださいました。
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――アンチスパイラルとは何者なんでしょうか?
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上川 全てにおいての絶対的存在。僕もシリーズを観ていて、ついに現れた螺旋王。その存在には当然驚いたわけですが、アンチスパイラルは、それをも凌駕する存在な訳です。グレン団が正義、アンチスパイラルが悪という関係ではなくて、それすらも関係ない。シモンたちには意地と気合があるように、アンチスパイラルも絶対の信念がある。それだけは揺るがないように演じました。
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――アンチスパイラルを、上川さんはどのように演じられましたか?
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上川 アンチスパイラルはラストの4話にしか登場しない存在なんですが、その大半において、彼は人類を歯牙にもかけていない。月落下を阻止したことすらも気にしていない。存在すら認めていない、それくらいの気持ちで演じました。僕らの目線で云えば、シモンたちはアリ以下のような存在。普段は意識すらしていないような存在にすぎないんです。だから最初は、相対しているようで、相対すらしていない関係ですね。ところが、大グレン団の力の前に、その視点がだんだん覆されていく……というように演じていきました。あとは仕上がるのを楽しみにしています。毎回、ものすごい質の画ですから。劇場版といってもいいくらいのハイクオリティですからね、凄く期待しています。
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――そのハイクオリティのGAINAX作品の中で、上川さんが印象に残っているものは?
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上川 『新世紀エヴァンゲリオン』については云わずもがなですよね。思いつく限り、幾つでもありますよ。『王立宇宙軍 オネアミスの翼』『ふしぎの海のナディア』『トップをねらえ』……アニメーションが盛り上がり始めたときに旗揚げされた頃からGAINAX作品は見ていました。GAINAX作品に参加できたことは、純粋に嬉しいです。
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――上川さんが一視聴者としてご覧になっていて、『グレンラガン』の中で気に入っている登場キャラクターはどなたですか?
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上川 主要キャラクターは勿論なんですが、中でも見逃せないのがダイグレンの砲手のアーテンボローですね(笑)。何故か、彼の言動一言一句にクスッと笑えるんです。目が離せないですね。今度はどこで撃つの?って(笑)。
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――上川さんは、劇団☆新感線に出演されたときに、中島さんの脚本で演じられていますが、『グレンラガン』で中島さんらしさを感じるところはどこですか?
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上川 やはり「名乗り」「口上」ですね。いのうえ歌舞伎に通じる「口上」が生理的に気持ちいいんですよ。「俺を誰だと思っていやがる!」というキメゼリフですとか。今となっては時代劇の中でもなかなかお目にかかれないセリフがたくさん詰まっている。「その手は喰わねえ!」とか「雑魚はスッ込んでろ!」(笑)。先程の話と重複してしまいますが、僕ら世代が触れてきたエンタテインメントにはよく見受けられた琴線に触れるようなセリフが、あちこちに散りばめられている。これこそ、中島節だなって毎回思いますね。きっと若い世代の方々も新鮮な格好良さを感じておいでではないかと思うんですけれど。アンチスパイラルは、そういう啖呵を切るシーンがないのが残念でしたが、ロボットアニメに欠かせない「必殺技コール」を叫ばせていただいたので、もう大満足です。ロボットアニメに参加したからには、一度はやってみたいことですから。
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――「必殺技」ですか、フィルムで拝見できるのが楽しみになってきました。最後にメッセージを。
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上川 『グレンラガン』のファンの方には説明の必要など無いかもしれませんが、これはトコトン娯楽に徹した素晴らしいエンタテインメント作品です。僕自身、毎週楽しみに日曜日を待てる様な作品に参加できて、悔しいながらも光栄でした。もし、途中からご覧になったとしても、遡って最初から見なおす価値が十分にあると思います。不幸にして見逃してしまったのなら、是非とも一話から見ていただきたい作品です。
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